バル酸小話ちょっと書いたからゲリラに上げてみよう
残念ながら誰も借りてません。名前だけなら計画タン借りました
なんか続きそうな流れですがもしかしたら続くのかもしれません。わかりません。お腹が空きました・・・。
短いですよ。今回はマジで短いですよ。だってなんか続きそうな感じなんだもん。
実を結び、膨らんできたそれはどこか幸せそうに見えた。
一人で作業をしていると、ポアッとした陽気に当てられて気分が良くなってくる。
まだそれほど強くない日差しを受けて、これからやってくる季節を待ちわびるように植物の葉が広がっていく。それが日ごとに変化していくのだから、ぼくはそれが楽しくてしょうがない。
きゅうりのツルがくるくると綺麗な螺旋を描いていてとても可愛らしい。そう思いながら小さな実をブツブツと間引いていった。
これらが育って食べられるようになったら何を作ろうか。生のまま齧るのも自分としては大好きだが、サラダに添えるなりパンにはさむなり色々使い方を考えないと子供たちが飽きてしまう。漬物にするにはどうも自分の家の床では美味く作れない。最近知り合いも増えたことなのだし、その方たちに良い方法を聞くのもいいだろう。うまくいけば、姉の食堂にも、もう一品料理が増えるかもしれない。
農作業はもちろん大変だけれど、その苦労があって初めて得られる達成感がある。空腹が満たされることもそうだが、それとは違った感覚だ。ぼくはこれが子供たちと遊んでいることの次に楽しいと思っている。
ふいに足に重さを感じた。
目線を下げれば大きな白い塊が足を踏んでいた。まやちゃんだ。
白い胴体に四肢の先が黒く、立派な尻尾の先もまた黒い。くわえて耳の先そして顔にも色がついている。青い綺麗な目がぼくを見上げていた。
最初よく育ったタヌキかと思ったが猫らしい。今も足元でにゃあにゃあと鳴いている。
ひょんなことでぼくの家に居座るようになったまやちゃんは、非常に人懐っこい。だれかれ構わずその大きな体をすりつけ、長い毛を撒き散らしていく。一度でもあの巨体を抱っこしようものなら、次出会ったときに飛び掛られてしまう。
村の中でも最初は化け猫と言われ警戒されていたが、ドブにはまる子供の作った落とし穴に落ちる自分で登った木の上から降りられなくなるといった間の抜けた行動と持ち前の愛嬌で以前よりずっと村に馴染むようになった。
でもなぜか、ぼくにだけは一定の距離を保とうとしている。
今だってなぜかまやちゃんはぼくのすねを齧っている。とても痛い。たぶん血が出ている。いや穴が開いている。
とりあえず離してもらおうと、ぼくは噛まれている足のほうをまやちゃんを蹴るように振り動かした。足を引けば肉を持っていかれそうだったからだ。
まやちゃんの体が一瞬浮くと、口を離してくれた。それから転がるまやちゃんを抱き上げて口を押さえ、耳元で何でこういうことをするのかと、たずねた。もちろん返事は帰ってこない。
黒い前足が畑の外を指差している。何事かと見やれば、そこにはラインが立っていた。
隻腕の青年は右手を軽く上げ、僕に「やあ」と人の良さそうな笑いを投げかけてきた。
彼のふわふわとした金髪がやわらかい風にかすかに揺らめいている。彼はぼくより1つ年下の24歳で、背格好もぼくより一回り小さい。ぼくがこの村にやってきてから、初めて出来た同年代の友人で、何かにつけて一緒に居たが、去年の秋にラインが結婚してからあまり接する機会もなくなっていた。ただぼくが忙しくなっただけだったのかもしれないが。
何より半年ほど前に起きた事件から、ラインは以前より外に出なくなっていた。元々社交的とは言えない性格だったが、要因はもちろん彼の片腕にある。
半年前の事件によって彼は左腕を失った。ぼくの右手は、重みを失った彼の左手の感触をまだ覚えている。ぼくは魔物に襲われた彼を置いて逃げたのだ。その時の彼の顔はぼくは一生忘れることはないのだと思う。
それでもラインは、自分の腕のことは誰のせいでもないし、まして自分が生き残れたのはぼくのおかげだ。と笑って言ってくれた。
そのことを思い出しただけで僕の目頭はジンと熱くなる。
「なにソレ。バル白タヌキでも飼い始めた?」
歩み寄ったぼくが抱えていたまやちゃんを見て、ラインは目方を確かめるようにまやちゃんの頭の先から尻尾の先までじっとりとした目で確認した。
食用だと思われている。
その時が来たら分けて欲しい、と目で語られた。
「いや、猫だよ。分けないからね。あと食べる予定もないから」
つまらーんと彼が言うと、ぼくから一歩離れた。
なぜ離れたのかわからずぼくはラインに向かって一歩進んだ。すると彼は先ほどのように一歩下がる。真意が読めずぼくはまた一歩進むと。
「やめれ。人の嫌がることはするなっておまえの姉ちゃんいつも言ってるだろうに」
何を言っているのかわからず、ぼくは首をかしげてからまやちゃんを下ろした。この猫はかなり重いのだ。
「うお!放すなよ!くわっつかれたらどうすんだ」
彼は緊張したように肩をこわばらせた。まやちゃんがラインの足元によっていく。
「え。齧ったりしないよ、まやちゃんは」
「そんならなんでおまえの足に穴が開いて出血してる」
「ああ、じゃあぼく以外は齧ったりしないよ、まやちゃんは」
まやちゃんがラインの足にいつも誰かにするように体をこすり付けた。ソレと同時に彼の体が震えた。
「その穴はホントにこいつが開けた穴かよ!やめろよヘビかなんかだと思ったのに!うわ」
ラインは体のバランスを崩して倒れそうになった。それを手を伸ばしてぼくが支えると、彼は情け無さそうに礼を言ってまやちゃんから遠ざかった。
「猫だめなの?」
ぼくはまやちゃんを捕まえた。基本的に抱き上げようとする時は無抵抗である。
安全だということを彼に見せたらようやく彼のほうからこちらへやってきた。
「こんなに可愛いのに。ほらまやちゃんがラインのこと気に入ったみたいだよ」
まやちゃんはラインに向かって前足を伸ばしにゃーにゃー鳴いている。
その姿を見て、ラインは嫌がっているのが誰が見てもよく分かるようほど深く眉間にしわを作った。それでもまやちゃんはめげない。
仕方がないのでぼくは別の話題を供給することにした。
「レオさん元気?」
彼は自分の嫁の名を聞いてすぐに顔の力を緩めた、だが代わりに口角を下げてまた先ほどとは違う表情をする。
「あれの名前はレオじゃない。それじゃなんか勇ましいだろ。いい加減覚えなおしてくれよ」
ぼくが彼女の名前をレオと呼ぶのは何も彼女が勇猛果敢に戦いに挑む戦士のような容貌だからではない。単に長くて覚えられなかったからだ。
初めてレオに会った場所はこの村から遠く離れた街だった。お使いと都会見物を兼ねてぼくとラインが二人で田舎者丸出しの様子でふらふら歩いている時だ。
第一印象は覚えていない。確か、都会のお嬢さんは顔に絵を描くものか。程度だったような気もする。そのときの話をすると決まって夫婦に猛攻撃をくらうが覚えていないものはしょうがない。だが、これでも一応ぼくも7つまではあの街に住んでいたのだ、さすがに自分でも問題のように思えてくる。
何かが色々ぼくのわからないところで物事が進み、二人は恋仲になり気がついたら結婚の話になっていた。それは会ってから2年ほど経っていただろうか。やや気位の高いレオはやはりそこそこ良いところのお嬢さんだったため、彼女の両親から反発される。だが駆け落ちや心中もなく彼女は平和に村に嫁いできた。ラインに聞いたところ、彼女は家出をし、それから親と長い時間をかけて手紙のやり取りをしてやっと自らの手で自由を勝ち取ったらしい。その間、別にレオはラインの家に居たわけではないというところが少し心配の種だと言っていた。
ともあれ、彼女はしたたかな女性だということはぼくは良くわかっている。
結婚後、ラインはレオに一度離婚を求めた。それを彼女はで取り下げさせた。その後泣いて喜んだのはラインのほうだった。
それは半年前の事件の直後だった。
片腕を失った彼は、レオに実家に帰るよう要求する。この1ヶ月前からレオは田舎暮らしや慣れない家事に疲れ、誰かにあたりちらし、ラインともケンカを繰り返すようになっていた。そのこともあっての決断だった。
だがそれは彼の本心ではなかった。片腕を失ってしまってはもうレオを幸せに出来ない。当時、彼が泣きながらぼくにそう語っていた。あの時、腕を失ったのがどうしてぼくじゃなくラインだったのかずっと思い悩んでいた。繋がっていたぼくらの腕を魔物はたまたまラインの腕のほうを切ったのだ。代われるものならどうか代わりたかった。
レオはラインに別れを告げられた翌日、彼の前から姿を消した。
なぜか彼女はぼくの家に居たのだ。それから彼女は丸1日我が家に篭城した。荷物はラインの家に置きっぱなしだったためすぐにばれ、彼女は子供のように大泣きしながらラインに文句を言い続けた。レオが本当に居なくなったら後悔するだろうから、というおよそ成人女性がするには苦しい理由だった。
それでも彼は彼女を許し、彼女は彼を信じたのだ。
ぼくはこの夫婦が大好きになった。
結局ラインが何の用があってぼくに会いにきたのか分からないまま雑談が続き、場所を移動して適当に歩き始めていた。少し前に食べた昼飯がゆっくり軽くなっていくのが分かる。
放牧されているヤギがにぎやかに鳴いているのを横目に見ながらぼくはいつもより口元が緩んだ。のどかな動物の鳴き声を聞くと和む。
脇を流れる小川でぼくらより若そうな女の子たちが仕事が終わって遊んでいた。一人がぼくらに気がついて手を振る。
ここからじゃ実は誰だか分からないが、とりあえずぼくは手を振り返した。女の子たちは水遊びをしながら嬉しそうに話をし始めた。
「おまえ、あの3人が誰だかちゃんとわかってっか?」
下からにらむような視線が刺さってきた。ぼくは悪いことをしたつもりはないのだが、ラインの目はずいぶん冷ややかだった。
「・・・3人居たのか」
ぼくには4,5人居たように見えたのだが、目に関しては彼のほうがずっといいので反論できない。
「そんな調子じゃあの年頃のやつらにどう思われてっかわかってないだろ」
薄茶色の瞳が非難の色に染まっている。何かしたか心当たりのないぼくは、逃れようと首をかしげた。
あの年頃がどの年頃なのかも見えてなかったなんて言えそうにない。
「本人に財力はない。だが子供好きで料理が出来て口答えしなくて、小姑は勢いはやや強いが面倒見が良くて包容力のあるおかんと呼ぶにふさわしい女性。去年までは頭に頼りないがついたおまえだが、もうそれはこの間のアレで払拭されてずいぶん株が上がってる。わかってっかこの意味」
彼が一息に言い上げて、しばらくしてやっとぼくのことを言っているとわかった。そう思うと少し恥ずかしくなる。
あの事件の以降、ドタバタも落ち着いてから村の中でのぼくの評価が変わったらしかった。生き残った中で、事の顛末を見届けたからだ。
でもぼくは素直に嬉しい気持ちにはなれなかった。元々人から信頼されるのに慣れてなかったのもあるが、何よりこの地位はぼく自身が築いたものではなく、カイエの功績に乗っかったに過ぎないからだ。
「悲しそうな顔すんな。あのときの話がしたいんじゃないよ、おまえもういくつだ」
「今年で26」
ぼくが言うと、腕の中のまやちゃんがびくっと動いてぼくの顔を見上げてきた。
「同い年の女はみんなもう子供がいる。バル、おまえいつ結婚すんだよ」
思いがけない問いかけに驚いてしまった。ラインの目がいつになく真剣に心配しているのが心苦しい。
「え・・・えー・・・」
言いよどんでいると、ラインは盛大なため息をついた。
「おまえにとっても、あいつらにとっても・・・狙い目なんだよ。ああ、長々おまえに対して語ってもしょうがないから直球に言うと、結婚できる器量のヤツがいつまでも1人でいるなってことだ。おまえんねーちゃんなんつってるよ」
「な、何も・・・」
人の話を聞くならいいが、自分に向けられているとなるとどうも苦手な話題だ。どうにかそらせないものか。
それとさっきからプランタンの顔が頭によぎって仕方がないのだ。
「・・・心配してんのは、おれやおまえんねーちゃんだけじゃないぞ。なんてったって村の中は狭い」
言われてぼくは、少し気分が重くなり、うつむき加減に「わかってる」と返した。
たぶんぼくは何もわかっていない。
結婚が彼らのように好き合った2人で起きる事象だというのなら、少しばかりぼくの夢には難がある。