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カイエとアサオが海で何かしてる。
2008年10月中旬くらいに作成

あと確かまやちゃんがいる
そして超短い。


 

 

 

 

 引いて寄せてを等間隔に繰り返す水面は常に揺れている。いや、揺れているのは引いて寄せてを繰り返しているからだ。一体最初に始めたのは寄せるほうだったのか引くほうが先だったのか。何を思ってこの巨大な水面は動き続けているのだろうか。
 僕の手の中にある釣竿の先端から垂らされた糸は、底の知れない暗さを持った海水の中に吸い込まれている。
 目当てである反応はない。
 堤防の上、とてつもなく広大な空とすべての恐怖を飲み込んでなおも存在し続ける強大な海に挟まれながら僕は釣りを楽しんでいた。
 全く持って不本意な形で始めたのだが、これが中々楽しいのだ。たとえ傍らに用意されたかごの中身が空だったとしても。
 頬や額を掠める匂いの強い風や、終わりそうもない寂しげな波の音が絶え間なく僕の周囲に流れ続ける。僕は動いていないのに、太陽や全てのものは動き続けている。あまりにも怠惰な時間経過なのに、僕の中には一つ目標があるということが心地よく不可解だ。
 このままこうしていたらいつかはぐっすり眠れるのではないだろうか。
 枯渇した僕の欲求が全く別のもので満たされて安息を得るのだとしたら、それはそれでいいような気がした。
 左のまぶたをゆっくり開閉させてから、竿を足で固定して両腕を広げて伸びをした。まったりとまどろんだ皮膚細胞にかすかに活力が入る。だが、動作に連動してか大きくアクビが出た。
 首をコキコキ鳴らしていたら、視界のギリギリ右端に何かいるような気がした。
 そちらを見やると、何か変なものがいた。
 僕の脇に置いてあったゴミ捨て場にあったようなボロボロのかご、わずかに修理されたそれに子供が頭を突っ込んでいる。
 子供と言っても5,6歳の子供ではない。僕と大差のないような少年だ。いや少年かどうかは疑わしい。
 「オイ。こら、いたずらすんな。アサオ」
 地面について遊ばせるほど長い白髪に、この炎天下の下ほとんど肌を見せないような服装をしていられるような子供は知人では彼くらいだ。
 かごから頭を引き抜くと、女性的な顔が出てきた。くわえてフリルのたくさん着いたミニスカートに薄青いタイツを着用している。彼は男である以上、このような格好は似合う似合わないに関わらず良いこととは言いがたい。僕は彼が女物の服を着ることは非常に反対だった。
 「なんだよー。人に対してこの世の害虫を見るような辛辣な視線を送るなよ。ただオレはカイエが驚いて手が滑って竿を海に落として、ワーキャーして物のはずみでカイエも海に落ちてしまえばいいとしか思ってないんだから。ああ、またそういう顔する。この不細工」
 頬につい力が入る。
 アサオは両頬に空気をパンパンに詰めて何かの意思表示をした。
 「んじゃ、なんだ。お前は僕が熱烈大歓迎してアサオの両肩を叩いて抱いてこの出会った瞬間を喜べばいいのか?」
 「カイエ・・・やっぱりオレのことそういう風に思ってたんだ・・・」
 流れがよくわからないが、傷ついたような顔をしてアサオは足を崩してクネっと動いた。 
 「“そういう風”がどういう風か詳しく説明してもらわないと理不尽に痛い思いをするぞ」
 ひどくイラッとした僕は拳を握っていた。
 可愛い子ぶった上目遣いでしばらくアサオは目をしばたかせていた。それも飽きたのかそろそろ僕が殴りそうな気配だったのを察したのか、突然吹き出して、ブハハハハと普段大人の前では見せないような笑いをした。
 「あはー・・・はっは、いい加減オレのおふざけに意味がないことくらい分かれよアホ毛!ああ、痛い痛いつねるなって、オレの頬が垂れちゃうから。四十過ぎてだらしなくなったお肉のようになっちゃうから」
 僕はアサオの白い肉から手を離すと、呆れたようにため息をついて竿に手をやった。
 「お前な・・・、驚かして竿落としてワーキャーやって海に落としたいんだったら後ろから素直に驚かして突き落とせばいいだろ」
 「カイエごときに思いつくような意外性のないことしてドッキリ成功!してもつまんねえよ」
 「そう思った結果がアレって、相当煮詰まったな。いっそアサオが海に落ちたらどうだ」
 「うるさい。カイエごときに以下略。いいから早く聞けよ。なんか用?って」
 アサオは背後に何か隠してるかのように前かがみに接近してきた。
 「え・・・、お前のおふざけに意味はないんだろ」
 わずかにふさふさとした黒い尻尾が見え隠れした。
 「揚げ足とりゅなーいいからスムーズに会話しろ。目突くぞ」
 イーッと歯をむき出しにしてすねてきた。もう、一度呆れてしまっているのだから付き合ってやるか。と僕は息を吐いた。
 「ああ、はいはい。なんか用?絡むんだったら他にも色んな人居るだろ」
 「んあ゛?オレだって好き好んでカイエなんかに絡んでんじゃねえよ!!お目当ての人材との出会いにことごとくはずして仕方なしにどっかで見たことのあるアホ毛でいいやって妥協したんじゃねえか!・・・まあそれはそれで後でゆっくり議論しよう。これこれコレ見てよコレ」
 いきなりの剣幕に圧倒されそうになったが、ころりと態度を変え、背後に隠していた白と黒の巨大な毛の塊を見せてきた。
 猫だ。顔と耳と足先と尾が黒い長毛の巨体だった。ややつぶれ気味の鼻を僕のほうに向けて白い腹を見せ尻尾の先をわずかにくねらせている。。
 「・・・これがどうしたよ。いや、お前犬派だろ」
 確かアサオが心の実家と以前語っていた家には、茶色い子犬がいた、その犬をアサオが溺愛しているという姿を見せ付けられたのは記憶に新しい。
 僕がそう言うと、朝雄は目を大きく開き猫を抱きしめながら大声でわめき始めた。
 「犬派だ猫派だぁ下らん派閥作ってくれちゃってまあ、論争でもする気か!動物なんだからどちらであろうとステキに決まってるだろう!アレか?系統わけして精神の安定をはかりなおかつ自らを犬派、すなわち従順で堅実な人間であるが猫派はワガママでとっつきにくく小悪魔系でちゅーみたいな感じのなんかこう、自己アピールに繋げるって魂胆か!浅ましいにもほどがあるな!オレはどっちも大好きだ!」
 うるさい。
 「最後の一言だけ聞きたかった」
 アサオが喋っている間に気がついたが、この猫はまやちゃんだ。あんまり大人しくしているから気がつかなかった。
 「ええ、で。はい。こちらの猫が大きかったもんだからみんなに見せたくてふらふらしてました。ところでオレ、猫でも犬でもさ、爪が内側にある感じなのかな?そういう手の構造の動物の指と指の間の線を見るとグッとくるんだけどどう思う?」
 「おまえ、あんまりかわいいことするなよ。気持ち悪い。ああ、結構肉球がどうとか言われるけど、僕もこの指の溝は良いと思う」
 まやちゃんの後ろ足を触りながら僕は言った。押すと軽く爪が出る。
 「だろー?」
 アサオはほわっとした笑みを浮かべてからまやちゃんを抱きしめた。なぜまやちゃんは喋り出さないのだろうか。
 「このふさふさは何事にも代えがたいなあーぁぁところでカイエなんで釣りなんかしてんの?」
 「・・・猫のことになるとはぁはぁ言い出して気持ち悪くなる赤毛のおじさんが釣りをしてて、何で?って聞いたところ『猫を呼ぶためだ』とかなんか言ってて昼前になっておじさんは昼食調達という名目でゴミをあさりに行って、その間僕に竿を託した・・・ってだけだ」
 猫好きおじさんも間がよければこうしてまやちゃんを触れたのだろうと想像するととつくづく彼は神に愛されていないのだろうと思う。
 「・・・趣味に理由を聞くのは野暮だよな」
 「うん・・・」
 
 釣竿をアサオに任せて僕はまやちゃんと遊んでいた。一向に猫好きのおじさんが帰ってこないところを見ると、途中で別の猫に引っかかったのだと予想される。
 「まやちゃんぐにぐにー」
 体の皮膚が良く伸びて楽しい。
 「勝手に名前つけんにゃよー。ああ、そうだカイエクソ野郎」
 「必要性の感じられないところで悪口足すな」
 アサオはお出かけカバンから一冊の小さめの本を取り出してページを開けて僕に渡してきた。
 「オレさー、学がないから字読めないんだぁ~。というわけで音読しておくれよクソ野郎~」
 ところどころ汚れ、紙も折れ曲がっている。きっと拾った本か何かだろう。
 僕はしぶしぶ読み始めた。
 「あー『・・・衣服を剥ぎ取られ、露になった少女の下腹部は夕闇の中白く扇情的に浮かび上がった。無骨な腕が彼女の足をつかみあげ、まだなだらかな・・・秘・・・あ・・・・・・・・』死ねアサオ!!」
 耳といわず顔といわず全身に熱が回った僕は、まやちゃんを放り投げて本をアサオに突き返そうとした。が、アサオはすでに竿をあげてこの場を逃げる準備をしていた。
 「死なんよ!オレは死なんとも!本読むときは表紙確認して軽く目を通してから口に出しやがればーかばーか!!スケベー!きゃっはー」
 前かがみからのスタートは素早く、気を抜いたらすぐに小さくなってしまいそうなアサオの背を、僕はめいっぱい速く駆けて追いかけた。
 「待てこら!スケベはお前だ!!」
 「言ってやーろ言ってやろ!古登っつぁんも混じった女性陣のお部屋に、さも当然のようにオレが混じりつつ『ねえちょっと聞いてー?この間海でカイエ君がエロ本読んでたんだってー?しかも音読しながらー』とか以下にも非難したように言ってやろー!!」
 「ああああああ!死なすアサオ!!」
 「ちょ、カイエ君ってそんなこと言っていいキャラじゃないでしょぉキャーー。わあぁーーい」
 絶対に僕では追いつけないと分かっているのか、アサオの声はずいぶんと余裕があった。
 きっとアサオはこの耐久レースがやりたいがために話しかけてきたのだろう。
 これだから、僕や僕らは一向にゆっくり過ごせない。海だって時間が止まるわけではない。一秒だって止まっていい時間などないのだろう。
 とりあえず彼の息の根を止めたいと本気で思った。



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