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無題1の続きです。

ただ純粋に、続きです。
かなり唐突にはじまります。


それでは

あ、エピローグはまだ考え中・・・。



 信じられないことに疲労感はあまりなかった。
 カイエは、申し訳ないくらい頻繁にぼくのことを治療したのだ。不思議な力だった、治るのは怪我だけではない。彼の力が注がれるたび、先ほどまで箱にうずくまって吐いていたのが嘘のように、ぼくの心は奮い立たされた。
 それでも、彼はどうしても自分の回復だけは行わなかった。自分の治療ができないとは思えない。そのような法則は聞いたことがなかった。
 彼はまだ、生存者が居ると信じている。
 一度、死体たちに囲まれたときにもらした言葉があった。
 「バルにいちゃんが生きてて他のヤツが全員死んでるなんてことぁねえだろ!」
 必死だった。
 それこそ悲痛な叫びのように聞こえた。
 部屋一つ一つをしらみつぶしに確認していったが、ぼく以外の生存者は見当たらなかった。
 カイエはその時泣いていなかったか。
 最初に集まってきた以外の死体たちは、村の住人だった者たちではなかった。その誰とも知れない死体たちは他の村人たちより力が強いのだ。ぼくの怪我は増える一方で、彼の負担も大きくなるばかりだった。
 何度となくぼくは、外を振り返ってしまった。もう退こう、と。
 もう生きている者はいないのだ。
 だがカイエはそのたびぼくをにらみつけた。絶対に自分は死体の最後の一人まで破壊し尽くす。いや、最後の生存者まで探しつくす。という意思を持った目だった。
 置いていけるわけがないだろう。こんな少年を。
 彼が奇跡の力を自分に使わないのは、今まさに消えてしまいそうな命のためにとっておいているのだ。ぼくはそう感じた。
 視界に入る最後の腐りかけを殴打すると、その勢いで一緒に床を破壊した。
 大穴が開いたそこに迷わず彼は飛び降りた。1階だ。
 ぼくも下に彼が居ないことを確認してゆっくり降りたのだが、そこは聖堂わきの細い通路だった。
 見るとカイエは聖堂への扉を蹴破っている。
 ぼくも続いて聖堂に駆け込むが、そこにはもはや見慣れたバラバラになった死体たちが転がっていた。
 ステンドグラスで彩られた広間では、各々死体たちが戦い合っていた。不思議なことに音を立てて蹴破ったはずのカイエには目もくれない。
 それでも彼は死体たちに容赦しなかった。
 ぼくはぼくで緊迫した状況に追いやられていた。
 義兄だ。
 手にした細剣をぼくは構え、苦しそうな顔の義兄と対峙した。
 いいや、目の前のこの死体は義兄ではない。
 存在を許されない哀れな敵なのだ。
 死体が振り下ろした斧をかいくぐって懐に入り、ぼくはその腐った体に剣を突き入れた。手の感触がやけに悲しい。
 浄化の形は個人差があるらしく、義兄だった体は白い砂のようになって崩れ落ちた。
 ぼくは優しかった義兄が大好きだった。
 幼い頃生き別れた兄の姿と重ねていたのかもしれないが、本当の兄のように慕っていたのだ。
 なかなか村に溶け込めないぼくを最初に気にかけてくれたのは彼だった、今思えば姉目当てだったのかもしれないがそんなことはぼくにとってどうでもいいことだった。彼の本意がどうであれ、ぼくは義兄に感謝している。これからも。
 ああ、あの赤い影。
 ふつふつと怒りがこみ上げてくる。
 ぼくらの日常を返して欲しい。
 周りが少し静がになった。カイエが全て黙らしたのだ。
 だが彼ももはや、杖に体を預けてやっと立っている状態だ。彼はあの小さい体で血を流しすぎている。
 『人間は、なぜ我らの宴を妨げる?』
 カイエが突然ぼくのほうに視線を向けた。いや、正確にはぼくのすぐ隣だ。
 赤い影。目深に被られたフードで顔が見えない。
 「アンタやっぱり魔物か・・・」
 カイエが目を見開いて狂人のような顔で笑う。
 影が少しばかり顔を上げた。そこから見えた顔は―ラインのものだった。
 ぼくは数歩ほどよろける様に後ろへひいていた。
 彼が生きているはずはない。まして彼が魔物だったわけもない。
 ラインとは一緒に育った仲間なのだから。
 「バルにいちゃん・・・、そいつに体はない。その時々に生きた人間の体に取り憑いて遊び歩く死に喰い虫だ、死体を操って食べる。だがこんな力はないはずだが・・・?」
 困惑の混じった顔のカイエをよそに、ぼくは歓喜した。
 もしカイエの解説の前半部分が正しいのならば、ラインは生きている!
 床には切断された腕から流れ落ちた血で、血だまりが出来ているが、早く治療すれば助かるかもしれない。
 だがこの剣でラインを貫けば、きっと死に喰い虫は殺せるかもしれないが、ラインまで死んでしまうかもしれない。
 ぼくの脳裏でカイエの言葉が復唱された。
 敵を見ろ。
 「ごめんね。ライン、もう見捨てないから」
 剣を構えてぼくはまっすぐラインに向かっていった。大きいものを得るためには覚悟が必要だ。
 ぼくが持っていた剣は赤いローブを貫いた。
 そのローブがもやになって溶けると、ぼくの口の中へ入っていく。
 後ろに倒れるライン。彼に傷なんて負わせていない。ぼくはラインの脇をすり抜けてローブにだけ剣を突き入れたのだから。
 なんとなく意識が混濁してきた。これが乗っ取られる感覚なのか。 
 視界の端でカイエが高く飛び上がったのを見た。手にはさっきまで寄りかかっていた杖。まるで最初に会ったときのように光り輝いている。
 その光はぼくやラインを包み込んだ。今までいくら剣や斧を受けても傷一つ負わなかった硬い杖は、ぼくめがけて振り下ろされる。

 
 朝日を透かしたステンドグラスの色とりどりの光がまぶしかった。
 ああ、太陽はこんなにも力強いものだったのか。とぼくはしみじみと思った。
 ぼくは死んでいなかった。
 急いで起き上がったぼくは驚いた。
 ぼくの横には血の止まったラインに、あと3人の自警団員が気を失っているように寝かされていた。
 その顔にはピンクがさし、生きているということがすぐにわかった。
 泣きそうな感動だ。
 だが泣いていられない。このみんなはカイエが運んだと思われる。彼はどこだろうか。
 見回せば、ぼくがさっきまで立っていた場所が視界に入った。イスは吹き飛び壁には大穴が開いていた。だがぼくはこうして生きている。彼は捨てようとしたぼくの命すらも助けたのだ。
 彼はぼくらの村を救ってくれたのだ。
 立ち上がったぼくは走り出していた。探さなければ。
 もしかしたら何も言わずに去っていってしまったのかもしれない。
 そんな名もなき英雄のようなことはさせない。彼は名声を得るだけのことをしたはずだ。
 ぼくはきしむ体に鞭打って方々探し回った。最後には教会の裏に来てしまった。
 表のほうでは騒がしい声が聞こえる。どうやら村のみんながやっと教会内に踏み込む決心をしたようだ。
 このままでは、あの横たわった4人が英雄になってしまう。
 村のみんなには真実を伝えたかった。その真実のためにはカイエが姿を現さなければ。
 木立に少し入ったところで、全身血だらけの赤い小さな影を見つけた。
 一瞬そのシルエットで死に喰い虫を思い出してしまったが、カイエだ。
 杖に全体重をかけてゆっくり進んでいる。だから、なぜ、もう脅威は去ったのだから自分の治療に力を回さないのだ。
 ぼくはその後姿に涙ぐんでしまう。
 どうして彼は休まないんだ。
 「カイエ君!!」
 ぼくの呼びかけに、彼はゆっくり振り返った。目は丸く見開かれている。
 こうして明るいところで見ると、彼は本当に子供だった。
 発展途上の低い身長や、引き締まった細い体型、村には同じくらいの子供が何人もいる。
 なんでそんなに必死に生きているのだろう。ぼくは聞きたくてしょうがなかった。
 今にも崩れ落ちそうなカイエに駆け寄ろうとしたのだが、それはすぐにできなくなってしまった。
 左横の木の間から、緑のリボンのように細いベルトが飛んできてカイエを捕まえると、魔法の効力なのか数十倍の長さに伸びて彼の全身に巻きつき、蓑虫のように転がった。
 何が起きたのかわからなかった。別の、敵だろうか。
 安心して丸腰だったぼくは、思わずその場に立ち止まってしまった。
 「も・・・もうしわけございませんわ、カ、カイエさま」
 女の声が聞こえた。緑のベルトが飛んできたほうからだ。すぐにその声の主は姿を現した。
 まだ若い女だ。丸い眼鏡をかけて金髪のみつあみを二つ垂らしている。コレだけ見れば真面目な少女のようなのだが、服装に問題があった。
 変態だ。
 赤と青の薄く細いベルトをわずかに乳首を隠す程度に巻いており、その胸は男性ではないかと疑うほど平たい。上半身はほとんど露出され、下半身は奇抜なファッションを好む魔法使いの女性のようなスカートをはいているのだが、そのスカートは透けてピンク色の下着が薄く見えている。
 間違いなくかかわりあいになりたくない人種だと思ってしまった。
 「ああ・・・カイエさまカイエさま。なんてことですの。またこんなにぼろぼろになって」
 緑の蓑虫になったカイエの顔の横に膝をつく女性。どうやら敵ではないらしい。
 ぼくも転がった彼のもとへ走った。
 出来れば彼女とは関わりたくないと思ってしまったが、彼に関連する人物ということならばそうも言っていられない。
 「なげかわしいですわ・・・あたくしひじょうに悲しく思っております」
 彼女は両の手で顔を覆う。見ればカイエは完全に白目をむいて気絶していた。
 「あ・・・、あの。すいません、カイエ君の保護者の方でしょうか」
 ぼくはついクセで、自分よりも年下に見える彼女に対して下手にでてしまった。というか、少々怖かったのだ。 
 顔をあげた彼女の顔は、眼鏡で一見わからないが、綺麗な目をしていた。気圧されるほど、力のある目だ。
 「そういうあなたは、何者ですの?あたくしはウルー。緊縛呪術専門の魔女にございますの。このような姿勢で失礼ですが、あたくしは彼の同僚すの」
 そう言って彼女はうやうやしく一礼した。
 「あ、その。ぼくはこの村で竹細工を作っているバルというものです・・・」
 ぼくもならって彼女に会釈した。
 「ではバルさん、あなたは一体全体このいやしいあたくしめにどんなご用があるというのでしょう」
 「いえ、あなたではなく。そちらのカイエ君に、礼を言わないといけないのです」
 「あらあら、丁重にお断りさせていただきますわ」
 わけのわからない反応を返されてしまった。どうやら普通の会話は望めないようだ。
 仕方がないのでぼくはこの教会で起こった出来事を端から彼女に伝えることにした。
 「・・・そんなことがございましたの・・・。申し訳ございませんわ、あたくし早とちりしてしまい」
 「いや、あの・・・ぼくまだ何も言ってないのですが」
 なぜこんな素っ頓狂な会話をしないといけないのか。カイエは目を覚ましてくれないだろうか。
 「よくわかりましたわ。でも、あなたは気が付いていらっしゃらないでしょうけれど、死に喰い虫以外にも骨喰い虫が混じっていらしたの」
 驚いた。意味の分からないことを並べているだけかと思ったら、ぼくが話してもいない死に喰い虫の話をし、なおかつ見てきたかのように別の魔物のことを言おうとしている。
 やはり、彼の関係者ならば普通であるはずはないと言うことか。
 「まるで見てきたようですね」
 皮肉ではないが少し棘のある言い方になってしまった。
 「見てきましたわ、あたくし腹がたってやっつけてしまいましたわ。死に喰い虫と骨喰い虫は、お互い死体を操って、どちらのほうが力が上なのか勝負しておりましたの。質問されるのが、あたくし嫌いなので先に言わせてもらいますが、両方のごみ虫ちゃんたちはどちらも変異種だったと思われますの、虫けらちゃんたちには死体を掘り起こす力がないから、死体を操って墓から這い出させてからその死体を食べることしかできないはずでしたの。でも村には変死がはやりましたわね、これはクソ虫ちゃんたちの共同作業で細かく一人ずつ乗り移っては心臓を止めて村人を殺していったのですわ、材料集めのために」
 次々とよく分からない事実が挙げられていく。こんな変態の格好をした女を信じるのかといわれれば、普通であれば絶対に信じられないのだが、状況が状況だ。ましてこれでつじつまが合ってしまうのだ。
 だからあの時、ラインの姿で現れたとき、『我らの』と言っていたのか。
 「古い教会をよりしろにすると霊的なものがありまして、力が集まりやすいのですわ。だから・・・村の方々は本当に残念でしたわ」
 悲しそうに目を伏せた。
 だがコレはもう終わったことなのだ。
 ウルーはいつの間にかカイエの頭を膝に乗せていた。目も気が付いたら閉じている。
 ハンカチを取り出して彼の顔についた血や汚れを落としていく。
 固まった血は非常に落としづらそうだが少しだけカイエの肌を見ることができた。粘土のような奇妙な質感の白さだった。
 耳だって尖っている。何から何まで奇妙な容姿をしている。
 だが、険の取れた丸い顔から察するに、緑の呪縛はどうやら、カイエの体を癒しているように思えた。
 「この術、あたくしカイエさまのためだけに頑張って考えましたの」
 だけに、とは大きく出た。
 「カイエ君って・・・何者なんですか」
 少し和やかだったものだから、聞いてみた。このままカイエがウルーと共に去っていってしまっても、それは彼の本意なのだろう。ぼくは彼が無事だということがわかって非常に嬉しかった。だが、それでも彼のことを少しでも多く知りたかった。
 「あたくし質問されるのは嫌いですの」
 そういえばそんなことを言っていたか。
 彼女は顔を上げた。その頬は少し色づいている。服が変態でなければ十分可愛らしい女性なのだが。
 「ですが、カイエさまのことを語るのはあたくし、大好きですの」
 それはちょうどよかった。
 「14年前、かれがまだ生れ落ちた神のなりかけだったときですわ。あたくしまだほんの小さな赤子であったかれを、一目見たときから恋に落ちてしまいましたの」
 「ウルーさんって何歳ですか」
 「でもあたくしはしがない邪教信者、ああして遠くから眺めることしかできませんでしたわ、辛い日々でしたの・・・、悔しくて食いちぎったハンカチの枚数も数知れず・・・それでもかれはあたくしの目の前で成長してゆくのです、なんて嬉しいことでしょう。そんな幸せも続かず8年後、かれは教会ごと姿をけしてしまいましたわ」
 身振り手振り、歌劇の演者のように世話しなく伝えてくる内容をぼくは理解することができなかった。
 一体何の話をしているのだろう。
 「あたくし、失意の底で、とりあえず職を探しましたわ。こんな変態趣味の魔女を雇ってくださるまっとうな職場をついに見つけましたの。とても勇敢な女剣士率いる傭兵団でしたわ、あたくしいろいろな意味で期待に答えられるよう必死で働きましたの。でも小さな神さまはあたくしを見捨てていらっしゃらなかったのです。そうです、まだ幼いカイエさまがあたくしのために会いにきてくださったのですわ」
 この先ほどから上げられている「かれ」というのはカイエのことだったのだろうか。だとすると相当大きい話のようだ。
 
 しばらく理解しがたい話は続いた。
 少なくともわかったことは、ウルーがカイエのことを深く愛しているということと、この二人の所属している傭兵団が近くの街まで商人のキャラバンの護送をしていてちょうど街のほうで仕事が終わり、休んでいたところこの村の噂を耳にした、ということだった。
 「カイエさまはぶっ飛んでいきましたの。夜通し走り続けでしたわ」
 もちろん街までは遠い、徒歩ならば3日4日はゆうにかかってしまう。それを彼は1日で走ってきたのだという。どうしてただ噂を聞いただけの人間が、こんな村まで労力を惜しまず来てくれたのだろうか。
 ぼくは夜中、彼に言ってしまったことを思い出して涙が溢れてきた。
 「・・・ウルーさん、申し訳ございません。ぼくは・・・カイエ君にとてもひどいことを・・・言いました」
 「死んでわびてください」
 「嫌です・・・、なんで、もっと早く来てくれないんだ。と、彼のことも考えず・・・」
 「死ね」 
 「嫌です・・・」
 ざんげのつもりだったのだろうか。ウルーにわざわざ言わなくても良かったのだ。もしかしたらまだ、この女に慰めの言葉を貰おうとしたのだろうか。だとしたらやはりぼくはひどいやつだ。
 「人間なんて目の前のことだけで精一杯なんですわ。なんて、あたくし慰めの言葉なんて手持ちにありませんの。カイエさまには慰めなんて必要ありませんから」
 細い女性らしい指先が白い頬を撫でる。重そうなまぶたがぴくりと動いた。
 「この方は人間を愛しておられますの、同胞の命を。人間に限らず、意思を同じくする仲間を。カイエさまは自分の最後の命も迷わずあなたに差し上げたでしょう。この方がひとのために生きるのなら、誰か一人くらい、この方のために生きてもいいでしょう。例えば、あたくしとか」
 そう言ってウルーは眼鏡をはずし、ハンカチで拭いたとはいえ、普通の女性ならばまだ抵抗を感じるであろうカイエの額に口付けをした。その様子は、まるで姉のような母のような。
 あまりにも優しい光景だった。
 確かにカイエが一日で走った距離を、彼女も同じように走ってきたことになる。そこに、なにやら愛情を超えた意志を感じる。
 だが、かがんだときに彼女の背中に大きな傷があるのに気が付いた。
 「あ!だめ、だめですわ!カイエさま」
 なぜかウルーが言うと卑猥な印象を受けてしまうが、彼女の体、傷を中心に淡く光を放った。
 見ればカイエの左目だけわずかに開いている。
 彼女の背中の傷は程なくして何もなかったかのように消えてしまった。
 「・・・ウル・・・ねえ・・・ちゃん、ほどいて・・・」 
 カイエの消え入りそうな声に、ぼくはいたたまれない気持ちになって胸が苦しくなった。
 ウルーがカイエを発見したと同時に捕縛した理由は、こういうことだったのか。縛りつけでもしないとすぐにどこかへ走り去ってしまうのだ。
 ウルーの目にも涙が浮かんでいた。
 「おねがいします・・・おねがいします・・・、今はどうかお静かになさってくださいまし・・・」
 彼女の背の傷は、きっと骨喰い虫というヤツにやられたのだろう。
 二人は、お互い必死になって生きている。ぼくは二人を上から眺めながらそう思った。
 ぼくは生き残った。
 死ぬような運命の中生き残った。
 昨日という日をぼくはこれからどう感じながら生きるのだろう。
 まだはじまって間もない今日を、ぼくはこれからどうするのだろう。
 カイエは、きっと英雄になることを望まない。一つの村に一日でも縛られるくらいならば、その一日を駆け抜けて他の百を救おうと努力するだろう。
 引き止めてはいけない気がした。
 ぼくはどうしたいのだろう。どうすればいいのだろう。
 顔を伏せていたら、ぶちっとベルトが切れる音がした。すぐに見ればウルーがあわてた顔をしている。
 一体どんな筋力なのか、腕のところのベルトが一本千切れていた。蓑から這い出ようとしている。
 「い、いけませんわ」
 聞く耳もたず、カイエは転がって四つんばいになると、震える手で立ち上がろうとした。
 ぼくは、助け起こすこともできない。おこがましい気がした。
 脇に転がっていた彼の杖を持ち上げようとした。渡してあげとうと思ったのだが。
 持ち上がらない。
 両手を使ったが、上がる気配がない。怖ろしく重いのだ。この杖は。まるでこの小さな子供が背負っている何かのとてつもないものを持ち上げているような錯覚を覚えた。
 しばらく奮闘していると、カイエがこちらを見て笑っていた。
 不気味な、にやりではなく、年頃の少年のような明るい笑いだった。
 「重いだろ」
 感慨深くなっているせいか、彼の何気ない笑顔がそれはそれは心に響いた。
 そうだ。コレが見たかったのだ。
 ぼくは分不相応な杖の持ち上げをやめ、カイエに笑って一礼した。
 「ありがとう」

 

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